子どもが成長するにつれて、「いつまで小児科にかかれるのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?風邪やちょっとした体調不良のとき、いつも頼りにしている小児科の先生に診てもらいたいけれど、「もうこの年齢なら内科かな?」と迷うこともあるでしょう。この「小児科卒業」のタイミングは、実は明確な線引きがあるようで、ないような、少し複雑な問題です。
小児科ってそもそも何歳まで?一般的な目安
多くの保護者の方が気になるのは、「小児科は何歳まで診てくれるのか」という点でしょう。一般的に、小児科の対象年齢は明確に法律などで定められているわけではありません。しかし、多くの医療機関や専門学会が一定の目安を設けています。
これは、15歳頃になると薬の量が大人と同じになることや、体の発達がある程度進むことが理由の一つとされています。
一方で、日本小児科学会では、小児科の診療対象年齢を「成人するまで」と定めており、18歳頃の思春期まで小児科での診療を推奨する動きもあります。 これは、思春期にかけて心身ともに大きな変化があるため、子どもの成長・発達をよく理解している小児科医が継続して診ることが望ましいという考えに基づいています。
このように、一概に「何歳まで」と言い切ることは難しく、医療機関の方針や、お子さんの状態によって柔軟に対応されているのが実情です。
なぜ年齢で区切りがあるの?小児科と内科の違い
なぜ小児科と内科で対象とする年齢が分かれているのでしょうか?それは、子どもと大人では体の仕組みや病気のかかり方、症状の現れ方が大きく異なるためです。
対して内科は、主に成人を対象に、体の様々な臓器の病気を専門的に診療します。大人と子どもでは、同じ病気でも使う薬の種類や量、治療方法が異なることも多いため、専門性が分かれているのです。
小児科「卒業」の目安と判断基準
では、具体的にどのようなタイミングで小児科を「卒業」し、内科などの他の診療科へ移行することを考えるのでしょうか。一般的な目安と、その判断基準を見ていきましょう。
多くの小児科が区切りとする年齢
前述の通り、多くの小児科では15歳(中学卒業)を一つの区切りとしています。 この年齢になると、身体的な成長が進み、多くの病気に対する対応が成人と同じになることが多いためです。
目安となる年齢 | 理由 | 補足 |
---|---|---|
15歳(中学卒業時) | 薬剤の用量が成人と同じになるケースが多い 身体的な成長が進む |
多くの小児科で目安とされる年齢 |
18歳(高校卒業時) | 日本小児科学会が推奨する目安 思春期を含む成長・発達の重要な時期 |
心身両面でのサポート継続が望ましい |
20歳未満 | 小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象年齢 慢性疾患などで継続治療が必要な場合 |
特定の疾患や状況による |
ただし、これはあくまで一般的な目安であり、お子さんの状態や通院しているクリニックの方針によって異なります。
卒業を判断するその他の基準
年齢以外にも、小児科卒業を検討する上で考慮すべき要素がいくつかあります。
- お子さんの身体的・精神的発達:
- 身長や体重が成人レベルに達しているか。
- 自分の症状を自分で医師に伝えられるか。
- 治療の必要性や服薬について自分で理解し、管理できるか。
- 通院している医療機関の方針:
- かかりつけの小児科が何歳まで診療対象としているか。
- 成人期への移行支援プログラムがあるか。
- お子さんの疾患の種類:
- 風邪などの急性疾患か、喘息やアレルギー、糖尿病などの慢性疾患か。
- 小児期発症の慢性疾患の場合、成人後も小児科で継続して診る「移行期医療」の対象となることがある。
- 保護者の意向:
- 長年診てもらっている小児科医との信頼関係を重視するか。
- お子さん自身の希望。
慢性疾患と「移行期医療」
小児期に発症した慢性疾患(喘息、アレルギー、糖尿病、神経疾患など)を持つお子さんの場合、15歳や18歳といった一般的な区切りを超えても、同じ小児科で診療を続けるケースが多く見られます。
これは、長年お子さんの病状や成長過程を把握している小児科医が、成人後も引き続き専門的なケアを提供することの重要性が認識されているためです。このような、小児期医療から成人期医療へのスムーズな橋渡しを行う医療体制は「移行期医療(トランジション)」と呼ばれ、近年注目されています。
小児期に慢性疾患を発症し、成人後も継続的な治療が必要な患者さんが、小児期医療から成人期医療へ円滑に移行できるよう支援する医療のあり方。単に担当医が変わるだけでなく、患者さん自身が病気や治療を理解し、自己管理できるようになるための教育や精神的なサポートも含まれます。
移行期医療では、小児科医と成人科医(内科医など)が連携し、患者さんの状態やニーズに合わせて最適な医療を提供できる体制づくりが進められています。 特に小児慢性特定疾病の医療費助成制度では、18歳未満の児童が対象ですが、18歳到達時点で引き続き治療が必要と認められる場合は20歳未満まで対象が延長されます。 これは、慢性疾患を持つ患者さんの移行期を支援するための制度の一つと言えるでしょう。
慢性疾患があるお子さんの場合は、一般的な年齢にとらわれず、かかりつけの小児科医と十分に話し合い、お子さんにとって最善の移行方法を選択することが非常に重要です。
小児科から内科へ移行する際のステップ
いざ小児科を卒業し、内科などへ移行することを決めた場合、どのようなステップを踏めばよいのでしょうか。スムーズな移行のための一般的な流れをご紹介します。
- かかりつけの小児科医に相談する:
- まずは、長年診てもらっている小児科医に、小児科卒業を考えている旨を伝えましょう。
- お子さんの成長や病状を踏まえ、移行の適切なタイミングや、次に受診すべき診療科についてアドバイスをもらえます。
- 必要に応じて、お子さんのこれまでの病歴や治療内容をまとめた紹介状を作成してもらいます。
- 移行先の医療機関を探す:
- 小児科医から紹介を受ける場合もあれば、自分で探す場合もあります。
- お子さんの疾患やニーズに合わせて、内科、専門科(アレルギー科、内分泌科など)、あるいは移行期医療に対応している医療機関などを検討します。
- 可能であれば、事前に医療機関に問い合わせて、受け入れ可能な年齢や診療内容を確認すると安心です。
- お子さんと話し合う:
- お子さん自身が自分の体のこと、病気のこと、そしてなぜお医者さんを変える必要があるのかを理解することが大切です。
- 一緒に新しい病院を見に行ったり、医師に会ってみたりするなど、お子さんの不安を軽減するための配慮をしましょう。
- 思春期以降のお子さんの場合、診察に一人で入る練習を始めるなど、自立に向けた準備も重要になります。
- 新しい医療機関を受診する:
- 紹介状やこれまでの検査結果など、必要な情報を持参しましょう。
- 新しい医師に、これまでの経緯や気になる症状、お子さんの性格などを詳しく伝えます。
- お子さん自身も、自分の言葉で症状や不安を伝える練習をしてみましょう。
最も大切なのは、患者さん本人(お子さん)が移行の必要性を理解し、主体的に医療に関わっていく意識を持つことです。 保護者はサポートに回りつつ、お子さんの自立を促す視点を持つことが求められます。
「まだ小児科でいいのかな?」迷ったときの対処法
お子さんが15歳前後になり、「まだ小児科でいいのかな?」「もう内科に行くべき?」と迷うこともあるでしょう。そんな時は、以下の点を参考にしてみてください。
- かかりつけの小児科に相談する: これが最も確実な方法です。年齢を気にせず、まずは電話などで相談してみましょう。多くの小児科では、年齢が気になる場合の相談にも応じてくれます。
- 症状から判断する:
- 発熱、咳、鼻水などの一般的な風邪症状や、子ども特有の感染症(おたふくかぜ、りんご病など)であれば、年齢が高くても小児科で対応可能なことが多いです。
- 腹痛、頭痛、倦怠感など、大人にも共通する症状で、特定の原因が思い当たらない場合は、内科も選択肢に入ります。
- アレルギー症状、皮膚のトラブル、耳の痛みなどは、専門科(アレルギー科、皮膚科、耳鼻咽喉科など)も検討しましょう。ただし、小児科で初期対応や専門医への紹介を行ってくれる場合もあります。
- 過去の受診歴を考慮する: これまでにかかった病気や、その際に受診した医療機関を思い出してみましょう。同じような症状であれば、以前診てもらった医療機関が適している可能性が高いです。
- 日本小児科学会の推奨年齢を参考にする: 日本小児科学会は成人までを対象としています。 思春期のお子さんであれば、小児科で心身両面の相談ができるメリットも大きいでしょう。
自己判断で内科を受診したものの、実は小児科でなければ適切な対応が難しい疾患だった、というケースもゼロではありません。迷った場合は、まずはかかりつけの小児科に電話で相談するか、症状が軽い場合はオンライン診療などを活用して医師に判断を仰ぐのも良いでしょう。
小児科卒業後の選択肢
小児科を卒業した後、お子さんはどのような医療機関にかかることになるのでしょうか。主な選択肢としては、以下のようなものがあります。
移行先の選択肢 | 特徴 | どのような場合におすすめか |
---|---|---|
内科 | 成人の一般的な内科疾患を幅広く診療 | 風邪など一般的な体調不良 特定の慢性疾患がない場合 |
専門科 (例: アレルギー科、内分泌科、神経内科など) |
特定の臓器や疾患に特化した診療 | 特定の慢性疾患がある場合 専門的な検査や治療が必要な場合 |
移行期医療外来 | 小児期発症の慢性疾患患者の成人期への移行を支援 | 小児期から特定の慢性疾患で継続治療を受けている場合 |
総合診療科 | 臓器にとらわれず、患者全体を診る | 複数の症状がある場合 何科にかかるべきか迷う場合 |
お子さんの健康状態や、これまでの病歴、将来的な治療の必要性などを考慮して、最適な移行先を選択することが重要です。かかりつけの小児科医は、これらの選択肢についてもアドバイスをくれるはずです。
保護者が知っておきたい「移行期」の課題とサポート
小児科から成人科への移行は、お子さん本人だけでなく、保護者にとっても大きな変化です。長年信頼関係を築いてきた小児科医のもとを離れることに不安を感じる保護者の方も少なくありません。
- 保護者の不安: 長年診てもらってきた医師への信頼が厚いほど、新しい医師や医療機関への移行に不安を感じやすい。
- 患者本人の戸惑い: 小児科では保護者が中心となって治療方針を決めることが多かったが、成人科では患者本人の自己決定がより重視されるため、戸惑うことがある。
- 医療者間の連携: 小児科医と成人科医の間での情報共有や連携がスムーズに行われない場合、治療に空白が生じたり、患者さんが不安を感じたりする可能性がある。
- 制度の違い: 小児期と成人期では、医療費助成制度などが異なる場合がある。
これらの課題を乗り越え、お子さんが成人後も適切な医療を受け続けられるようにするためには、保護者のサポートが不可欠です。
- お子さんの主体性を尊重する: 移行期は、お子さんが自身の健康管理に責任を持つための重要なステップです。医療者とのコミュニケーションや治療方針の決定に、お子さん自身が積極的に関われるよう促しましょう。
- 医療者との連携をサポートする: 必要に応じて、これまでの病歴や治療経過をまとめた情報を提供したり、診察に同席してお子さんの状況を補足したりするなど、医療者間の情報共有をサポートしましょう。
- 移行期医療に関する情報を集める: 移行期医療に対応している医療機関や、関連する支援制度について情報収集し、お子さんにとって最善の選択ができるようサポートしましょう。
- 不安を共有し、相談できる相手を見つける: 移行に伴う不安や悩みは、一人で抱え込まず、家族や友人、同じような経験をした保護者、患者会などに相談してみましょう。
まとめ:「小児科卒業」は成長の一つの節目
「小児科は何歳まで?」という疑問は、お子さんの成長とともに訪れる自然なものです。一般的には15歳頃が一つの目安とされていますが、日本小児科学会は成人までを推奨しており、慢性疾患を持つお子さんの場合は20歳未満まで医療費助成の対象となるなど、様々な状況があります。
小児科卒業のタイミングは、単純な年齢だけでなく、お子さんの身体的・精神的な発達、疾患の種類、かかりつけ医の方針などを総合的に考慮して判断することが重要です。 そして、移行期医療という考え方があるように、特に慢性疾患を持つお子さんにとっては、小児科から成人科へのスムーズな移行をサポートする医療体制の活用も視野に入れるべきでしょう。
- 小児科の対象年齢に明確な決まりはないが、一般的には15歳(中学卒業)が目安とされることが多い。
- 日本小児科学会は成人までを推奨しており、18歳頃まで小児科で診るケースもある。
- 小児科と内科は、対象とする年齢層の身体的・精神的特徴や、かかりやすい病気が異なるため専門性が分かれている。
- 小児科卒業の判断は、年齢だけでなく、お子さんの発達、疾患、かかりつけ医の方針などを総合的に考慮する。
- 慢性疾患を持つお子さんの場合、「移行期医療」として成人後も小児科で継続診療したり、成人科へのスムーズな移行支援を受けたりする場合がある。
- 移行する際は、かかりつけ医への相談、移行先の検討、お子さんとの話し合い、そして患者本人の主体性を促すサポートが重要。
小児科卒業は、お子さんが一つ成長し、自身の健康管理に主体的に関わっていくための大切な節目です。不安な点があれば、まずはかかりつけの小児科医に相談し、お子さんと一緒に今後の医療について考えていきましょう。この記事が、その一助となれば幸いです。
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